研究概要 |
アナログ-ディジタル(A-D)変換における標本化および量子化の操作を光領域で行う方法として、ファイバ中の非線形光学現象を用いる方法を提案し、本年度は特に、零分散ファイバ中の四光波混合(FWM)を利用した標本化および異常分散ファイバ中での高次ソリトン発生を利用した量子化の原理確認実験を行なった。まず、標本化および量子化の原理について説明する。一定周期の光パルス列(角周波数ω_1)およびアナログ信号で強度変調された光信号(ω_2)、一定振幅の連続光(ω_3)を零分散ファイバに入射させると、FWMにより2ω_1-ω_2に振幅がアナログ信号に比例し、一定周期で標本化された光パルス列および2ω_1-ω_3に一定周期で標本化された振幅一定の光パルス列が同期した状態で発生する。これらの周波数成分のみを光フィルタで切り出し、光増幅器を通した後に異常分散ファイバに入射させると、振幅がアナログ信号に比例して標本化された光パルスは、それぞれの振幅に応じた高次ソリトンとなり、周波数の異なるパルスとの衝突によって引き起こされる相互位相変調によって、アナログ信号の振幅に応じた個数のソリトンに分裂する。よって、連続値であるアナログ信号の振幅が離散値であるパルスの個数に変換され、パルス数変調による量子化が原理的に可能である。次に、光標本化の原理確認実験の概要について説明する。繰り返し周波数25.6MHzの光パルス列(波長λ_1=1539nm)およぴ周波数200kHzの正弦波で強度変調された光アナログ信号(λ_2=1544nm)を零分散波長1539nm,全長231mの分散シフトファイバに入射させて、波長1534nmに発生したFWM光を帯域幅1nm光フィルタによって切り出し、オシロスコープで時間波形を観測した。標本化されたパルス列の包絡線は入力アナログ信号とよく一致しており、ファイバ中のFWMによる光標本化が可能であることを確認した。さらに、高次ソリトン観測のための実験の概要について説明する。ファイバレーザから出射される波長1550nm,パルス幅1.6psの光パルス列を帯域幅0.5nmの光フィルタに通すことによりパルス幅を6psに広げ、これを標本化によって得られた光パルスとみなす。このパルスのピーク電力を光増幅器と光減衰器の組合せで調整した後、波長1550nmにおける分散値5.63ps/nm/km,全長308-1549mの非零分散シフトファイバに入射させ、ファイバ出射端におけるパルスの自己相関波形を観測した。その結果、1次〜5次ソリトンの発生を確認した。今後、高次ソリトンを分裂させる実験および標本化および量子化の統合実験を行なう予定である。
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