研究概要 |
本研究では,有線・無線統合ネットワークにおいてTCPスループットを向上させるため,無線回線速度の変動を吸収できるようなTCPの改良を目標としている.本年度ではリンクレイヤレベルでGo-back-N ARQ方式を実装した場合のTCPスループット評価のための理論モデルを構築し,無線の通信環境の変化がTCPスループットに対してどのような影響を与えるのかを定量的に検討した. インターネットにおいて信頼性のあるパケット配送を保証するTransmission Control Protocol(TCP)は,パケット損失が主として輻輳に起因する有線ネットワーク上で適切に作動するように設計されている.しかしながら有線無線ネットワーク上では,無線の通信品質の変動によってもパケット損失が発生し,結果としてTCPスループットが過度に低下することが知られている.そのため過去の研究では,有線無線ネットワーク上でのTCPの性能を改善するために,無線で発生したTCPのパケット損失を有線無線インターフェースのデータリンク層レベルで回復するautomatic repeat request(ARQ)の利用が提案されてきた.本研究では,ARQの中でも特にGo-back-N ARQに着目し,データリンク層でGo-back-N ARQを有する有線無線ネットワーク上でのTCPの性能評価を行なった.具体的には,対象システムを離散時間単一サーバ待ち行列にモデル化し,得られるデータリンク層レベルの棄却率とTCPのネットワーク容量に関する経験則を用いてTCPスループットを導出した. 数値例から,無線の通信可能期間と通信不能期間の長さがラウンドトリップタイムに対して小さ過ぎるときと大き過ぎるときにスループットの低下が確認された.通信可能期間と通信不能期間が共に小さい場合は無線通信状態が頻繁に変動することに相当し,ここではリンクレイヤパケットが頻繁にし通信不能状態に遭遇するためにスループットが低下することが考えられる.一方通信可能期間と通信不能期間が共に大きい場合は無線通信状態がそれほど頻繁に変動しないことに相当し,この場合は長い通信不能期間がスループットの劣化を引き起こすことが考えられる.この結果より,ラウンドトリップタイムと通信可能期間および通信不能期間との関係がスループット向上の方策を考える上で重要となることが確認された.
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