本年度は、申請者がこれまで実装してきた実時間通信機構であるRT-Messengerを、広域ネットワークで利用可能にするためのパケットフォワーディング機構の研究開発を行った。本機構では、RT-Messengerのリアルタイムパケットと他のパケットとをイーサパケット単位に識別し、リアルタイムパケットを優先的にフォワーディングするような仕組みを中間ノード内に組み込むことにより、最小遅延時間でのパケット転送を実現している。1ミリ秒毎にパケットを送信するロボット制御アプリケーションを想定した評価試験の結果、連続する2つのパケットの到着間隔は95%以上の確率で0.998ミリ秒から1.001ミリ秒の範囲に収まっていること、またこの性能は他のトラフィックが存在するかどうかにはほとんど影響を受けないことなどが分かり、段数の限られた狭いネットワーク内での制御には応用可能であるとの知見が得られた。 しかしながら、多段階のネットワークを利用する場合、この誤差が段数に比例して大きくなるため、広域ネットワークを利用するためには更なる研究が必要である。そこで、各ノードでのフォワーディングにかかる処理時間の揺らぎをオンラインで直接計測し、このデータに基づいて動的に経路を切り替えたり、常に複数経路を利用したり、資源予約を行うなどの新たな仕組みの構築に着手した。そのうちの本年度の成果としては、オンラインでの詳細な性能計測結果に基づいて、複数経路に対するパケットの振り分け確率を変化させることにより、各ノードの負荷率を均一化することに成功した。さらに、オンラインで各ノードでのフォワーディング遅延を直接計測する仕組みの構築をほぼ終了した。来年度は、これらを統合することにより、経路全体での遅延時間をオンラインで計測することが可能になり、そのデータに基づいて遅延時間の平滑化を目的としたパケットの振り分けを行うことにより、広域ネットワークでの通信遅延時間の揺らぎを低減していく。
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