180度磁壁移動の際にバルクハウゼンノイズが生じることが知られている。疲労の進展に伴い転位の集積が起こり、磁性材料においては磁壁移動に影響を及ぼすため、バルクハウゼンノイズを測定することによってき裂が発生する以前の疲労状態を定量的に評価できると考えられる。渦電流探傷などに代表される従来までの非破壊検査はき裂の発生を探るものであり、き裂発生以前の疲労状態評価は更に進んだ技術である。しかしながらバルクハウゼンノイズは複雑な時系列信号であり、測定できるバルクハウゼンノイズをどのような方法で処理することで磁性材料の疲労状態を定量的に評価するかが課題であった。非線形時系列信号であるバルクハウゼンノイズを評価する方法として、非線形現象を非線形のままで扱うことが出来るカオス理論に着目した。けい素鋼板から得られるバルクハウゼンノイズについて、(1)時系列信号の複雑さ、(2)スペクトルの連続性、(3)自己相関関数の変化、(4)再構成されたアトラクタの自己相似性の4項目に関して検討を行い、その結果、バルクハウゼンノイズについてカオス性があると結論付けした。本年度は、測定システムを構築すると共に、一般構造用圧延鋼材SS400を対象試料とし、本試料に面外曲げ疲労試験を行った時の疲労状態をバルクハウゼンノイズから再構成されるアトラクタの相関次元(フラクタル次元)から定量的に評価することを検討した。ここで得られた知見を基に来年度はオーステナイト系ステンレス鋼における疲労状態評価法へと発展させていく予定である。
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