180度磁壁移動の際にバルクハウゼンノイズが生じることが知られている。疲労の進展に伴い転位の集積が起こり、磁性材料においては磁壁移動に影響を及ぼすため、バルクハウゼンノイズを測定することによってき裂が発生する以前の疲労状態を定量的に評価できると考えられる。渦電流探傷などに代表される従来までの非破壊検査はき裂の発生を探るものであり、き裂発生以前の疲労状態評価は更に進んだ技術である。しかしながらバルクハウゼンノイズは複雑な時系列信号であり、測定できるバルクハウゼンノイズをどのような方法で処理することで磁性材料の疲労状態を定量的に評価するかが課題であった。昨年度は、測定システムを構築すると共に、一般構造用圧延鋼材SS400を対象試料とし、本試料に面外曲げ疲労試験を行った時の疲労状態をバルクハウゼンノイズから再構成されるアトラクタの相関次元(フラクタル次元)から定量的に評価することを検討した。その結果、疲労試験では、試料に引張応力と圧縮応力が作用するため、バルクハウゼンノイズと疲労状態の関係が明白にならないことが分かった。したがって、本年度は、疲労状態とバルクハウゼンノイズの関係を明らかにするために、一般構造用圧延鋼材SS400に対して引張試験を行い、破断するまでの各ひずみ状態でのバルクハウゼンノイズの測定を行った。また、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304における引張試験に対して検討を行い、磁気信号とSUS304のひずみ量に相関があることを明らかにした。
|