研究概要 |
本研究では,頭皮上から近赤外光を照射,検出する光マッピング法と,大脳のマルチスペクトル画像を直接撮像する方法による脳機能計測を,それぞれの場合について,組織の散乱が測定に及ぼす影響を詳細に解析することで,正確な脳機能画像を再構築する方法を検討することを目的としている. 光マッピング法については,頭部組織を表層(頭皮,頭蓋骨),脳脊髄液層,脳組織の3層構造に簡単化した生体模擬モデル(ファントム)を作成した.このファントム中の光伝播が実際の頭部組織中の光伝播を正確にモデル化できているかを検証するため,パルスレーザーとストリーク・スコープを用いた時間分解計測によってファントム内を伝播する光の飛行時間を実測し,ヒト前額部を対象に測定した結果と比較した.両者の結果はよく一致しており,作成したファントムの妥当性が検証された.さらに,ファントムを用いて脳機能変化部位と得られる画像の関係について検討したところ,多点計測した結果を単に補間することで画像を作成する従来法では,得られる脳機能画像の位置誤差が最大で10mmになることが示され,画像再構築アルゴリズムを改善する必要があることが示唆された. マルチスペクトル画像に関しては,脳組織の散乱,吸収特性の波長依存性が撮像されるマルチスペクトル画像に及ぼす影響を検証するため,モンテカルロ法による光伝播シミュレーションを行い,波長毎の点像分布関数を算出した.その結果,600nm近傍を境として長波長域では点像分布関数が大きく広がる傾向を示した.このことは,長波長域では画像の空間分解能が低下して,ぼけが増加することを意味している.これらの結果より,複数波長の画像から脳機能情報を抽出するさいに,使用する波長の組合せによっては,画像のぼけ補正などの前処理を行う必要性があることが示唆された.
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