従来のX線分光器は、X線の検出効率に優れるエネルギー分散型と、エネルギー分解能に優れる波長分散型の素子に大別される。X線マイクロカロリーメータは光子のエネルギーを熱に変換して検出するエネルギー分散型の素子であるが、100%に近い検出効率はそのままに波長分散型の素子に匹敵するエネルギー分解能を広いエネルギー領域で実現できる。この優れた特性を生かし、これまで不可能であった新しいX線分光分析技術、中でもナノ構造分析や高エネルギー天体観測を中心とした実用化を目指して、MEMS技術を用いたカロリーメータの大面積化技術を開発した。 高エネルギー分解能X線マイクロカロリーメータの実用化には、現在いくつかの技術的ブレークスルーが求められている。そのうちの一つが三次元的な微細構造を持つX線吸収体のアレイ化技術であり、これを実現するために非常に有効な手法として、多段階フォトリソグラフィと電析を用いた微細構造形成法を早稲田大学理工学部逢坂・本間研究室との共同研究によって確立した。本手法を用いることで、カロリーメータを動作させる極低温でも変形の少ない微細構造をウエハレベルで形成することが可能になり、T字型の断面構造を持ち、大面積の吸収体を基板から8μm程度浮かせて自立させることに成功した。また、同構造体をシリコン基板上にアレイ状に配列するデモンストレーションを行った。 また、X線マイクロカロリーメータのアレイ化に要求されるもう一つの課題として、基板フィードスルー配線を実現した。カロリーメータは、ノイズの低減を目的として、配線に超伝導体を用いてTc以下の温度で動作させる。このため、配線材料として、電析スズを用いた。配線はウエハ上にアレイ状50μmφのスルーホールを形成し、スズを充填することで構造的には形成可能だが、この状態ではデバイスとのコンタクトに問題があることが判明した。この問題は、コンタクト層として薄い銅のレイヤーを設けることで解決した。 多ピクセル化を前提としたX線マイクロカロリーメータの性能評価では、ホワイトノイズレベルから6keVの入射光子に対して、最高4.5eV程度の分解能を達成できるという見積りが得られている。
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