本研究では、はじめにジョセフソン接合を駆動するスイッチングパルスと、それによって生じる量子化パルス電圧のタイミングおよび位相関係について調べた。そこで、スイッチングパルスとして、完全に周期が一定している標準パルス(パルス列)に、位相がロックしたパルスを周期毎に追加した。これは、例えば一つのパルスを標準パルスの各周期に追加することによって、ジョセフソン接合の位相を、2π[rad]からさらに2π[rad]だけ(計4π[rad])増加させ、磁束量子に大きさが等しい電圧パルスを追加して発生させることを期待したものである。これによって、位相が「2π[rad]の追加パルスの数倍」で進み、その結果、接合端では発生する量子化電圧パルス数が、追加パルス数だけ増加する。したがって、ジョセフソン接合数を増加させることなしに電圧標準器の増加させうると期待される。これは、ACジョセフソン効果を説明する「波板モデル」に基づいて予測したものである。 この予測に基づいて、上記パルスコードで駆動されたジョセフソン接合の電流-電圧特性を数値計算したところ、予測通りに電流-電圧特性が電流軸方向の変化なしで、電圧軸方向にのみ拡大できることがわかった。この電流-電圧特性の電流軸方向不変性は、量子化電圧が得られる電流レベルが、スイッチングパルス(駆動パルス)数に依存しないで不変であることを意味し、バイアス点の切り替えが不要となることが示された。また、この場合のスイッチングパルスとジョセフソン発振との位相ロックは完全に周期的で安定であるものと確認できた。 以上の結果に基づき、追加パルスの位相にゆらぎをもたせ、数値計算を行ったところ、ゆらぎのない場合とほとんど変わらないという結果がえられ、スイッチングパルス単独で、量子化パルス電圧を発生させることができると予想される。
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