研究概要 |
本年度得られた成果は以下に列挙される. 1.前年度で得られた研究成果をさらに発展させ,任意の温度環境下における塩化物イオン平衡一般則の提案を行った.20℃室温下では,微細空隙水中に存在する自由塩化物と,細孔壁面に吸着あるいは化学的に取り込まれる固定塩化物の両者には線形関係が認められることが昨年度の研究成果より明らかになったが,ここではさらに温度範囲を40℃,60℃と広げた際の平衡特性を実験により解明した.結果として,温度が上昇するにつれセメント硬化体の固定化能力は顕著に低下すること,また室温下において認められた自由-固定塩化物両者の線形関係が,高温環境下では崩れることが明らかになった. 2.研究代表者が過去に提案している,炭酸作用下におけるpH予測手法の改良を行った.本手法は,物質移動・平衡・反応を含む複雑なプロセスであるため,従来の解析手法では秒単位の時間差分を必要とした.ここでは,日〜週程度の差分であっても十分な精度を有する非線形求解法の開発に成功した.数十年〜百年のオーダーが対象となるRC構造物の耐久性照査においては,本開発技術が重要な要素となる.新しいアルゴリズムにより,PCを用いた短時間での計算が可能になったため,ビジュアルインターフェースを有する寿命予測ソフトの開発も行った. 3.空隙内のpH値と塩分平衡の相互依存性のモデル化を行った.二酸化炭素の作用により系内のアルカリ性が失われるにつれ,固定化塩分が解放されるとするモデルである.提案手法を用いることで,塩分と二酸化炭素が同時に作用することにより生じる複合劣化が解析可能であることを示した. 4.温度が変化する条件下において,微細空隙中に蓄えられる水分平衡モデルの提案を行った.空隙をマイクロスケールの毛細管空隙,ナノスケールのゲル空隙,オングストロームの寸法を有する層間空隙に分類し,各々の温度敏感性を実験により抽出・モデル化したものである.
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