研究概要 |
東京湾をはじめとする富栄養化した内湾においては貧酸素水による底生生物のへい死や青潮等が問題となって久しい.貧酸素対策としては従来から流入負荷の削減,覆砂等が主に数値モデルを用いて検討されてきたが,それらの中には相反する結論が導かれている等,手法そのものの信頼性に大きな疑問が残されている.その最も大きな要因としては有機物の生産,輸送,およびその分解過程に関する周年を通じた詳細な観測情報が不足していることが挙げられる.一方,東京湾では首都圏第3空港建設等,環境に大きな影響を与える可能性のある大型プロジェクトが計画されている.これらの事業は環境影響評価法の対象となることから,環境の将来予測が必要となるが,さらにミティゲーション的な環境創造等の効果を検討し,国民合意の下での貧酸素水対策を展開していくことが期待される. 以上の背景を踏まえ,本研究ではまず,有機物生産の動態の詳細を把握するために,自動昇降式観測システムを用いた周年連続観測を行い,光量子,クロロフィルaを含む水質の鉛直分布の詳細を把握することを目的とした.東京湾湾央に位置する京葉シーバースにおいて自動昇降式観測システムを設置した.本システムにはクロロフィルaセンサーをはじめとする水質センサーが設置されており,毎時の水質鉛直プロファイルの取得を行った.2001年の夏の台風来襲によりシステムが破損したが,それまでのデータ取得にはおおむね成功した.同時にセジメントトラップを設置し,2日おきの有機物鉛直方向フラックスのモニタリングも併せて行った.以上により平面的には1点であるがこれまでに例のない詳細な連続モニタリングデータの取得に成功した. 一方,数値モデルにおいては首都圏第3空港設置後の環境評価手法の確立を目指して,有機物を浮子に見立て,その堆積過程をシミュレーションする手法を開発中である.同時に現地モニタリングデータに基づく数値予測モデルの高度化を進めている.
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