閉鎖性水域における富栄養化時の植物性プランクトンの過剰増殖を抑制するために、(大型水生)植物の持つアレロパシー効果を利用した技術開発を行うことが本研究の目的である。Allelopathyとは「異種生物間でお互いに影響を及ぼし合うこと」であるが、ここでは、シアノバクテリアないしは藻類に対する水生植物の忌避効果に期待している。元々植物が生産・放出した物質であり、生態系に過剰な影響を及ぼすことのない技術であると期待される。 供試植物としてはシュロガヤツリ・ホテイアオイ・オランダガラシ・コカナダモを用い、アオコの原因微生物の一つであるMicrocystis aeruginosaを対象とした。 これまでの研究から、従来水域からの栄養塩除去による富栄養化防止の視点で研究の進められてきたこれらのいずれの植物においてもM. aeruginosaに対してアレロパシー(的な)効果が見られた。共存系実験(ただし、供試植物の湿潤重量を統一するために裁断した)あるいは抽出系実験(破砕後に水抽出したのものを培地に添加)では、ホテイアオイ、あるいは、シュロガヤツリの根部において強い増殖抑制効果が観察され、M. aeruginosa細胞の溶菌が認められた。抽出系の実験に於いて、添加する抽出物量を変えたところ、その添加量に抑制効果が比例しており、少なくとも抽出物中にはM. aeruginosaの増殖を抑制する何らかの物質が含まれていることも分かった。また、その増殖抑制物質の効果保持期間は抽出後5日程度であることから、将来において、抽出物を水域に散布する「植物製剤」の様なものが工学的に可能であるとなれば、水域において他の生物に過剰な影響を及ぼすことなく、一時的にシアノバクテリアや藻類の過剰増殖を抑制できる可能性が示唆された。抽出物中の成分分析からは、カテキンないしは縮合型タンニンの存在が示唆された。 茶葉およびワサビの抽出物についても同様な検討を行ったところ、強いアレロパシー(的な)効果が確認された。
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