膜構造は軽量で強度の高い膜材料を張力状態で使用することによって、その材料特性を有効に活用した大スパン建築物の屋根などを可能にしている。本構造は許容応力度設計法に基づいて、一軸引張試験による膜材料の引張強さ(破断)に対して長期8.0、短期4.0の安全率を確保するように構造設計を行うのが一般的である。上記の安全率は他の構造材料に比べて高い数値となっているが、これは紫外線劣化による強度低下、材料の製造過程から加工過程、施工過程、施工後の暴風時や積雪時の環境下で生じうる膜材料の傷による強度低下、接合不良による強度低下、繰返し荷重下での材料の疲労に伴う強度低下、吸水に伴う強度低下、材料のばらつきが根拠となっている。これらの強度低下要因に対して膜材料の品質基準、加工および施工時の品質管理を厳しく行うことによって膜構造は事故が比較的少なく、高い安全性が保たれてきている。一方で膜材料の強度低下につながる要因を的確に評価することが可能となれば、膜構造の安全性を確保しながらより合理的な設計を行うことも可能と考えられる。上記の強度低下要因のうち、膜材料の傷または繰返し荷重下での材料疲労に影響を及ぼす現象の一つとして、張力消失にともなうしわ波座屈現象、いわゆるリンクリングが挙げられる。本研究では特に膜材料のせん断変形を伴うリンクリングに着目して、膜材料のせん断変形実験とFEM解析による検証を行っている。実験は膜材料のせん断剛性測定試験に用いられるフレーム型治具を利用して一軸引張試験機により加力を行い、リンクリング発生前後の剛性変化を調べている。またしわ波形状は、レーザー変位計を水平移動テーブル上で走査させて膜面の面外方向変位を高精度で計測している。
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