本研究は、冷房設備への依存が進む夏季の建築環境調整のあり方を、人の体温調節機能の健全な発達とその活用という観点から点検し、環境共生建築に相応しい温熱環境調整の目標や手法の提案を目的としている。 本年度は、居住生活の履歴が、暑熱環境下の体温調節機能に及ぼす影響を検討することを目的に、住生活調査と被験者実験とを併せて実施した。 調査では、出生から現在に至るまでの居住地や、クーラーの所有と使用状況などを調べ、昨夏については夏期のクーラーの延べ使用時間数を概算した。 実験は、気温25℃・相対湿度30%とした常温室と、作用温度34℃・相対湿度70%の暑熱空間を設けて行なった。被験者は常温室に40分間滞在した後に暑熱空間で30分間滞在した。実験中は椅座安静とし、頸部後ろで温熱性発汗量と皮膚温とをそれぞれ1秒と1分間ごとに連続測定した。また、鼓膜温の測定と温冷感申告を10分間ごとに行なった。 被験者は、19〜32歳の男女学生22名で、うち17名は東北地方の出生であった。家でクーラーを使いはじめた最低年齢は0歳で、出生時から冷房空間で生活している者もいた。現在の住まいのクーラー所有率は40%、実家も含めると73%で、夏の帰省中にクーラーを使用している者もある。 現在クーラーを所有しているうちの約9割がクーラーを今後も必要な設備だと考え、一方、クーラーの所有経験がない世帯の者は今後も必要ないと考えている。また、住み方の面では、通風時には他にも着衣を薄着にするなどの複数の行動性体温調節(平均+2.2項目)をする者でも、クーラー使用時にはその工夫が減り(平均+1.3項目)、クーラーに任せきりの傾向が伺えた。温熱生理面では、暑熱環境下での発汗能力は出生・生育地域の8月の外気温と相関が見られたが、クーラー使用者と未使用者の平均・最大発汗量には有意な差は認められなかった(各P値は0.27と0.15)。
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