研究概要 |
都市は非常に複雑な社会システムであるが,現在のところ,非常に単純なモデルに還元されて説明されているのが現状である。その一方で,都市に関する諸学問は,都市計画学,経済学,政治学,地理学,社会学等多岐にわたり,さまざまな知見が蓄積されているのも事実である。こうした各分野の知見を有機的に組み合わせることが,ますます複雑化する都市の進化過程を,より原理的なレベルから理解するひとつの有力な方法論になりうる。 本研究の目的は,都市システムを構成論的な見地から理解するための計算環境を構築することであり,前年度は,主として研究プログラムの構成と,システム設計に関する情報収集を行った。 H14年度は,具体的な計算環境作りと,構築されたシステムを用いたモデル構築・シミュレーションを行った。まずシステム作りに関しては,前年度の調査を受けて,TCP/IPとXMLを用いた簡潔で柔軟性・汎用性の高い分散型の計算システムを構築し,いくつかのベンチマークを行い,大規模計算において,高い並列計算性能を有していることを確認した。次に,構築したシステムを用いて,例題として都市生態学の古典的モデルであるバージェスの同心円モデルを,マルチエージェントモデルとして再構築した。都市オントロジー構築の観点から,できるだけ現実の都市に忠実なモデル化を試み,エージェントとして最小単位となる個人を導入し,都市活動の時間単位として重要な,1日とライフサイクルレベルでの行為・イベントをモデル化した。 当初の研究目標に照らしてみると,分散的なマルチエージェントの計算インフラを整えるという目標はほぼ達成できたが,もう一つの目標である都市オントロジーの構築に関して,十分な成果を挙げることができなかった。オントロジー工学は内容指向の研究で,オントロジーの認識や整理のための一般的方法論が確立されていないことに原因があるが,筆者の目指す都市モデルでは,モデル構築の基礎として不可欠である。今後の研究で集中的に取り組みたい。
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