イギリス経済はこのところ順調で、各地で再開発プロジェクトが進められている。そのなかには、伝統的建造物を利用した計画も少なくない。これら最近の動向を調査・研究していると、特に、産業遺産を利用した計画が多くなっていることに気づく。産業遺産を歴史的遺産とみなし保護しようという動きは、1970年代からあったものの、最近の活用方法は著しく変化している。1970年代には、地方公共団体や慈善団体等が主導し、産業遺産を地域の歴史を後世に伝えるための施設(博物館が多い)に改修する程度にとどまっていた。産業遺産は巨大なため、すべては利用できず、壊される部分も多かった。また、博物館の入館者も頭打ちで、経営も決して楽ではなかった。しかし、昨今では、民間のコンサルタント会社等が主導し、産業遺産の巨大であるという特徴を巧みに利用し、大規模なショッピング・センター等に改修する計画や、点在する施設を連結し、町ぐるみで産業遺産を利用した再開発を行おうとする計画があらわれてきた。これら新しい手法が誕生したのは、政席の規徹緩和と大きく関係するのだが、建築史の観点からは、伝統的建造物のひとつである産業遺産が、その価値を損なうことなしに保存・活用されており、理想に近い姿といえる。これら計画を詳細に検討していくと、イギリスの伝統的建造物の保存に関する法制度が、有効に機能していることが明らかとなった。なお、今年度、調査対象としたのは、スウィンドンの蒸気機関工場跡地の再開発、ブリストルの港湾地区の再開発、バーミンガムの宝石工場群の再開発、コールブルックデイルの鉄鉱業施設の活用、コンウォルの鉱山施設跡地の活用計画等である。
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