イギリスでは伝統的または歴史的建造物が重要視されており、その保存・再生の手法には学ぶべき点が多い。特に、昨今では、都市内の産業遺産を利用した大規模な再開発が目立っている。文化財建造物を所管する政府機関のイングリッシュ・ヘリテイジも、都市内の歴史的建造物の保存・再生に関して、力を入れ始めた。本研究では、これら都市再開発プロジェクトにおける歴史的建造物の取り扱われ方と、その背景となる法制度に関して、調査・検討を行なった。イギリスにおける都市再開発は、1981年のサッチャー政権による改革が大きな影響を及ぼした。そのなかで導入された都市開発公社ならびにエンタープライズ・ゾーンといった時限付きの制度はすべて役割を終え、現在、次の段階に入ったところである。また、ブレア政権下、都市計画や建築保存の手法も組織も改革がなされ、各地ではイングリッシュ・パートナーシップやタウン・センター・マネージメントといった新しい手法による都市再開発が進行中である。これらの改革が進められても、歴史的建造物が簡単に取り壊されることはない。それは、イギリスにおける歴史的建造物の保存に関わる法制度は、日本の文化財保護法のように独立したものではなく、都市計画に関わるさまざまな法制度のなかにちりばめられているためである。そのため、これら法制度の全体像を把握することが重要となる。また、これまでは経験的に行なわれてきた慣習等が、制度化されつつあるのも特徴的である。そのなかで、イングリッシュ・ヘリテイジの果たす役割は重要であり、歴史的建造物を保存・活用する際の組織的援助のシステムは、参考にすべき点が多い。なお、イギリスにおける都市再開発ならびに歴史的建造物の保存に関しては、現在もなお改革が進行中であり、継続した調査・研究が必要である。
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