本研究でいう旧横須賀鎮守府所管建造物とは、旧横須賀製鉄所および旧横須賀造船所、旧横須賀海軍の建造物を指している。これらの建造物については、日本建築史上重要な存在であることは広く知られているものの、これまで実物を通しての調査研究が不足していたものと考えられる。 本研究は、これらの建造物の実地での調査や史料調査を通して、旧横須賀鎮守府管下建物の技術的特色と日本の建築技術全体に与えた影響について考察することを目的とするものである。 調査の結果、先ず、在日米海軍横須賀基地内に旧横須賀製鉄所・造船所の副首長を務めたティボディエの官舎建築(以下、旧ティボディエ邸)の現存が確認された。この建物は古い建物であることなどが一部に知られていたもののこれまで本格的な調査はなされてこなかった。この建物の起工年代は明治2年頃で遅くとも明治4・5年以前に竣工していた可能性が高いものと考えられる。また、建設当時の図面史料との照合の結果、小屋組や側柱などの構造体については、ほぼ建設当初の形態を保持しているものと考えられる。この建物は基本的に西洋の技術を用いて建設されたものであるが、随所に日本古来の伝統的技法も確認され、伝統的技術によって西洋建築をつくりあげてきた当時の職人の姿が偲ばれる。旧ティボディエ邸は、西洋の建築技術が日本へ導入された最初期の姿を体現する存在として日本近代建築史上極めて貴重な建物といえるが、解体撤去の計画が具現化し、平成13年8月には本研究とは別途に保存に向けた緊急の実測作業が実施された。ただ、これまでの調査研究では、建築仕様等に関する細部の調査や検討には至っておらず、今後の更なる調査が必要な状況にある。 平成13年度の研究では、旧ティボディエ邸以外の建造物についても予備的な調査を行い構造リストの作成や所見・写真等の基礎的なデータの蓄積を図ると共に史料の収集に努めた。
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