相互拡散の最も基本となる解析式(俣野の方法)は拡散性が著しく異なる系(たとえばAu/γ-Fe系)には適用できないことが見いだされ、またそれは空孔流束量の不足が原因であることを飯島らが示唆していた。また深井らによると、金属を数GPaの水素高圧力下において高温で保持すると水素誘起空孔が生成し、それにより拡散が促進される。本研究では水素誘起空孔の手法をAu/Fe系の相互拡散に適応し、空孔流束量の不足が従来の解析法が適応できない原因であることを実験的に立証することを目的とした。このため本年度は、Au/γ-Fe拡散対およびAu/Au-Fe拡散対の2種類を5GPaの静水圧下と水素高圧下にて889〜1297Kの温度範囲で拡散させ、相互拡散係数を求めた。その結果、以下のことが明らかにされた。(1)Au/γ-Fe拡散対のAuおよびγ-Fe両相における相互拡散係数はそれぞれ水素圧の印加によって促進されるが、その程度はγFe相におけるもののほうが10倍大きい。 (2)水素誘起空孔はγ-Fe相に選択的に導入される。(3)水素圧の印加によってAu/γ-Fe拡散対のAu相における相互拡散はAu/Au-Fe拡散対のものとほぼ一致した。(4)通常の実験条件において見られた上述の矛盾は空孔流束量の不足が原因であることが実験的に立証された。
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