磁場誘起形状記憶合金の特性向上に不可欠な課題である、マルテンサイトの微細構造、磁区構造の精密評価を行った。具体的な研究成果は以下の通りである。 1.磁性体に対する電子線ホログラフィー実験法の開発 通常、電子顕微鏡の対物レンズは1Tを越える強い磁場を発生するため、材料固有の磁区構造を高い分解能で観察することは難しい。本研究は、対物レンズをオフにした状態で、磁区構造を詳細に評価できるレンズ系の励磁条件を決定し、この問題を克服できた。また、備品として導入したワークステーションを用いたホログラムのディジタル解析システムを開発し、試料近傍での磁束の分布を高い精度で評価できるようにした。 2.マルテンサイトバリアントと磁区構造の対応について 電子線ホログラフィーとローレンツ電顕法を駆使して、NiMnGa合金、及びNiAlCo合金マルテンサイトの磁区構造を解析した。その結果、マルテンサイトバリアントは一つの単磁区とはなっておらず、多くの細かい磁区に分割されていることや、双晶界面近傍では磁束の分布が急峻に変化する様子などが明らかとなった。また、母相で生じた磁区構造は、マルテンサイト相にはそのまま受け継がれず、構造相変態によって磁区構造も大きく変化することがわかった。 3.非磁性析出物と磁壁の関係について NiMnGa合金薄膜に、異なる大きさのMnO非磁性析出物を導入し、磁区構造との関係を考察した。その結果、析出物の大きさが数十nmまで大きくなると、磁壁は析出物をつなぐように波打った状態で存在することなどが示された。
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