本研究は良質な単近似結晶を作製すること、及びその電気物性を測定することで、正20面体クラスター等の特徴的な局所構造を有する準周期秩序物質の電子構造と電気伝導機構に関し知見を得ることを目的とする。単近似結晶の作製は、Al合金及びCd合金において行った。その結果、これまでのところ、Cd合金において良質の単近似結晶の作製に成功している。 作製方法はまず、Cd6Yb、Cd6Ca、Cd6Y、Cd6Ceの仕込組成で原料金属を秤量し、アルミナるつぼに入れてAr雰囲気で石英管に封じた後、電気炉を用いて溶解した。その後、溶融状態から冷却速度1℃/hで徐冷することにより単結晶粒を育成し、ファセット状の良質な単近似結晶を得た。得られた単結晶の評価は背面反射ラウエ法により行った。電気物性としては、交流四端子法により13K〜300Kの温度範囲で、直流4端子法により4K〜13Kの温度範囲で電気抵抗率の測定を行った。 結果として、上述の4つ合金系においてcm級のファセット状の単結晶粒が得られ、背面ラウエ法からはファセット面は{100}面と{110}面であることが分かった。室温における抵抗率は、40〜80μΩcmと近似結晶としては低い値を有し、特に多結晶試料よりも低いことが分かった。多結晶との抵抗率の違いは、単結晶においては粒界や第2相などの欠陥が無いことによるものである。一方、温度依存性はいずれの系においても正で金属的な振舞いを示し、Cd6Yb及びCd6Caにおいては、110K付近に相転移が明瞭に観測された。また、Cd6Yにおいても140K付近に相転移による抵抗率の飛びが観測された。Cd6Ceにおいては今回測定した温度範囲では相転移は見られなかった。今後磁気抵抗測定により単近似結晶の異方性を詳細に調べて、その電気伝導機構に関しさらに知見を得る予定である。
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