研究概要 |
本研究は平成13年度から平成14年度にわたる2年間で行われた.初年度の主な成果はナノメートルスケールで正確な実験が実現できるナノインデンターを新たに開発したことである.それを用いて組織が多様に変化する炭素・黒鉛材料に対して局所的な硬さ及び弾性率を測定した結果,微構造の変化に対応してそれらの値が大きく変化することを明らかにした. 本年度はセラミックナノ多結晶体をHIPにより作製し,その局所的な硬さを測定した.その結果,立方晶ジルコニアの硬さは明確な粒径依存性は認められないものの,押込み深さが数百ナノメートル程度の領域において,押込み量が小さくなるほど硬くなることが明らかとなった.金属材料ではこのような現象が一部認められているが,セラミックスでは新たな発見である.この挙動は圧痕直下で幾何学的に要請される転位ループの形成によって説明できることが分かった.単斜晶ジルコニアの場合,粒径が百ナノメートル以下になると硬くなることを見出した.これは塑性変形が数十ナノメートル程度の規模の双晶変形によって生じることが原因であることが分かった.さらに,正方晶ジルコニアの場合も粒径が百ナノメートル以下になると単斜晶程度の硬さ(約15GPa)から立方晶程度の硬さ(40GPa以上)まで急激に硬くなることを新たに発見した.これは粒径の減少によって正方晶から単斜晶への応力誘起相変態が抑制されたためである。このことは顕微ラマン測定で確認した. このように,本研究で開発したナノインデンターを用いてセラミックスの力学的性質がナノメートルスケールで正確に評価できるようになり.今まで認知されてきたマクロなそれとは大きく異なる様々な現象を明らかにすることが可能となった.
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