チタニウム基板を室温より高い温度でアルカリ性の無機塩水溶液と反応させると、その表面を付着力に富む結晶性のチタン酸塩で被覆することができる。この方法で成膜したチタン酸カルシウムを120℃以上の塩酸水溶液中で水熱処理することにより、チタン酸塩が分解し、その表面には酸化チタン(アナターゼ)が生成した。アナターゼが生成した試料は、ヒトの体内環境を模した37℃の擬似体液(ヒトの血漿中の無機イオン組成を再現した水溶液)中で、その表面にハイドロキシアパタイト(HAp)微結晶の生成が認められた。チタン酸塩を処理する時の塩酸濃度を高くすると、チタン酸塩の分解は促進されるのでアナターゼの生成も増加し、擬似体液浸漬時のHAp析出も促進されたが、被膜の脱落が認められるようになった。粘着テープによる付着力試験結果から、脱落はチタニウム基板と被膜との間のみならず、凹凸のある膜の表面形態の凸となっている部分での破壊により起きていることがわかった。 これを解決するためにチタン酸塩の成膜条件を探索した。チタン酸塩はその種類によって典型的な粒子形状が異なるので、立方体状の粒子形態を示しやすいチタン酸カルシウムのかわりに、繊維状や針状の形態をとりやすいチタン酸カリウムを被覆後、塩酸処理を行った。チタン酸カリウム膜の形成を、1.8mol/dm^3の水酸化カリウム水溶液中(60℃以下であれば2時間、150℃であれば1時間以内)で行ったのち、180℃の塩酸水溶液(pH2)中で3時間水熱処理することにより、表面粗さが改善され、薄くて付着力に優れた酸化チタン膜を形成できた。この酸化チタン膜にはアナターゼ相が存在し、チタン酸カルシウムを用いた場合と同様に、37℃の擬似体液浸漬の生体外試験において、1週間以内にその表面にHAp微結晶が析出したことから、生体親和性が期待できる。
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