研究概要 |
単結晶基板上にセラミックス薄幕がエピタキシャル成長する場合,成膜条件によって優先的な配向性が劇的に変化する現象が見られる。これまで、フェライト薄膜をシリコン基板上にエピタキシャル成長させる研究はほとんどなされてこなかった。平成13年度にはフェライト(ニッケル亜鉛フェライト((Ni, Zn, Fe)Fe_2O_4)、以下NZF)をシリコン基板上にエピタキシャル成長させるためのバッファー層の探索を行った。その結果、(Mgo-A1_2O_3)/CeO_2/YSZの3層構造からなるバッファー層の導入により初めてNZF薄膜がエピタキシャル成長することを見いだした。ここで、(MgO-A1_2O_3)はA1_2O_3を添加したMgOである。バルクではA1_2O_3はMgO中にほとんど固溶しないが、薄膜では少なくとも27mol%まで固溶し、MgOの格子定数はA1_2O_3添加に伴いほぼ単調に減少した。フェライトの配向性はA1_2O_3添加量および(Mgo-A1_2O_3)薄膜の膜厚によって劇的に変化することを見いだした。A1_2O_3添加量が0〜5mol%の場合、NZFは(001)配向であり、面内も単一の配向性であった。ところが、A1_2O_3添加量が5mol%を超えると面内に2種類の配向が混在する(001)配向となった。さらにA1_2O_3添加量が増え、18mol%に達すると、(111)配向となった。また、3mol%のA1_2O_3を添加したMgOに対して配向性の膜厚依存性を調べたところ、膜厚が0nmの場合には(111)配向、0.5nmの場合には(111)+(001)の混合配向、1nm以上では(001)配向となった。このように、NZFの配向性はバッファー層の格子定数や膜厚によって敏感に変化することを見いだした。NZF薄膜の配向性の変化により薄膜の磁気特性も大きく変化し、残留磁化(Mr)および角形化(Mr/Ms)は(111)配向膜では(001)配向膜よりも1.5倍程度高い値となることが明らかになった。
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