本研究の目的は、吸収端が250 300nm付近となるため、光触媒や光起電能の発現に、紫外光が必須であるTiO_2薄膜について、屋内外で、より効率的に光反応を起こすために、その可視光領域における光吸収の増感を検討することであった。このような増感剤添加により得られるTiO_2薄膜における光機能性は、TiO_2膜と添加した色素あるいは遷移金属イオンの両方の電子状態により発現し、そのメカニズムを定量的に解析するために、TiO_2膜自体のみならず、添加された色素あるいは遷移金属イオンの電子状態を同時にかつ正確に求める必要があるため、経験的なパラメーターを全く用いない、いわゆる第一原理分子軌道計算法の一つであるDV Xα法を用い、その電子状態を算出した。 まず、有機-無機複合TiO_2薄膜の作製には、Tiアルコキシドに対してキレート環を形成する有機物の添加が有効であることから、様々なβ-ジケトンが配位したTiアルコキシドの光反応性について検討を行った。その結果、置換基の共鳴系を長くすると、HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さくなること、また、光を吸収した時に電子が主に遷移すると思われるLUMO付近の軌道は、キレート環内のC-Oに関する反結合性の成分を含む軌道であることがわかった。このことから、用いるβ-ジケトンの共鳴系の長さを調節することにより、任意の波長に吸収をもたせることができる可能性のあることが明らかになった。また、TiO_2中に種々の不純物を添加したモデルについて考察した結果、遷移金属イオンを添加した場合は、不純物による準位が極めて局所的であり、光起電力など物性の可視領域化には有効でないことがわかった。また、アニオンを置換したほとんどの場合、酸化チタンのバンドギャップには変化が見られなかった。このような中で、Pイオンでチタンサイトを置換したモデルでは、伝導帯を形成する新たな準位がTiO_2のバンドギャップ内に現れること、またNイオンを添加した場合にのみ、HOMOのエネルギーが上昇し、バンドギャップが小さくなることを見いだした。これらの成果については、日本セラミックス協会2001年ガラス討論会および2002年春季年会において発表を行った。
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