本研究は光触媒微粒子の固定化(コーティング)技術に対し、環境低負荷型(常温・常圧)なプロセス技術の一つとして期待されている電気泳動法を適用するとともに、その有用性について検討するものである。電気泳動法は粒子を水系または非水系溶媒中に分散させた懸濁液中に一対の電極を挿入し、その電極間に電圧を印加することで帯電粒子を一方の電極(基板)上に堆積させる湿式成形プロセスの一種である。当該手法は、従来の圧粉成形、鋳型成形、射出成形、テープ成形では全く不可能であった高度に制御された高次の精密成形を実現できる手法である。一方、昨今の企業努力により高性能な酸化チタン光触媒微粒子が製造されていることを鑑み、本研究では主に日本アエロジル社製P25(一次粒子径21nm)を採用している。水系および非水系懸濁液からの電気泳動法により厚さ数十μm程度のP25単独粒子層が短時間(60秒以内)のうちに形成されることを確認した。しかしながら、P25単独層では室温での乾燥時に堆積粒子間の凝集に伴うクラックが発生し、良質な膜を得るまでには至らなかった。そこで、クラックの発生を抑制するために、有機バインダーとの複合化についての検討を行った。有機バインダーとしては、光触媒分解反応に耐えうる高分子であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を採用した。その結果、電気泳動プロセスの条件を最適化することで、クラックがほとんど見られない良質な膜の作製に成功した。電気泳動プロセス機構を明らかにするために、P25、PTFE、およびそれらを混合した懸濁液を調製し電気泳動実験を行ったところ、混合懸濁液中ではP25とPTFEのヘテロ凝集と考えられる複合粒子が形成されそれが電気泳動されていることを示唆する興味ある結果が得られた。また、電気泳動法により得られた酸化チタン膜および酸化チタン/PTFE複合膜はメチレンブルーの脱色試験により評価した結果、いずれも触媒能を有していることが確認された。
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