本研究において本年度はCr^<3+>-O^2-Cr^<3+>間の超交換相互作用を詳細に調べる目的で、ペロブスカイト型Cr酸化物LaCrO_3、NdCrO_3に注目し、その磁気的な相転移と、電気磁気効果の本質である誘電率にどのような関係が存在するかを明らかにすることを行った。 これら二つのCr酸化物は共に反強磁性体であり、ネール点(T_N)はそれぞれ280Kおよび220Kであるこれらの物質を、レーザアブレーション法を用いてNbドープSrTiO_3(100)単結晶基板上へ成長させたところ、(100)配向した高品質なエピタクシャル薄膜が得られた。これらの試料について、SQUID磁束計を用いてその磁気特性を調べたところ、上記の報告値と近いT_Nを持つことが分かった。さらに、誘電率の温度依存性を調べたところ、両物質ともに、T_N付近で誘電率が大きく減少する結果が得られた。つまり、磁気的な相転移と誘電率には強い相関があることが示唆される。また、この現象は誘電率を測定する際に低周波交流電場を印加した場合のみ見られ、周波数が高くなると観測できなくなった。これは誘電率の変化がイオン分極に支配されており、電子分極の影響が小さいことを示している。この結果は以下のように説明可能であると考えられる。 T_N以下でCr^<3+>スピンが反強磁性秩序配列しているとき、Cr^<3+>-O^<2->-Cr^<3+>間の化学結合角は超交換相互作用によって制限されている。ここへ交流電場を印加してイオン分極をさせようとしても、反強磁性状態がエネルギー的に不安低下されるのであまり大きなイオン分極が得られず、誘電率は小さな値となる。しかしながら温度が上昇してT_Nを越えると、Cr^<3+>-O^<2->-Cr^<3+>間の超交換相互作用が働かなくなるため、交流電場に対するイオン分極も相対的に大きくなる。
|