トンネル磁気抵抗効果(TMR)の磁気記録分野での応用を目指して、アルミナをトンネル障壁層としたコンベンショナルなプラナー型強磁性トンネル接合の研究が進んでいる。しかし、磁気記録技術の将来を展望した場合には、より大きなTMRや、TMRに付随した新規機能性の開拓が不可欠であり、近年、TMRに関し種々の新しい試みがなされている。単電子トンネル効果を利用したTMRでは、通常のトンネル接合以上の大きさのTMRが期待されることに加えて、動作電圧によってTMR特性を制御できる可能性がある。 本研究では、数ナノから数十ナノメートルの極薄のCo-Al-Oグラニュラー薄膜を上下電極ではさんだナノ構造を作製し、膜面垂直方向のトンネル電流におけるスピンに依存した単電子トンネル効果の観測を試みた。 集束イオンビーム加工装置を用いて、接合面積を1ミクロン角程度にまで小さくした場合に、低温での電流電圧特性に明瞭なクーロン階段が観測された。電極に非磁性のCr等を用いた場合にはTMRは得られなかったが、Coを用いた場合にはTMRが観測され、TMRの大きさがクーロン階段に対応して振動的振る舞いを示すことを見いだした。このバイアス電圧に対するTMRの振動的振る舞いは、TMRがバイアス電圧でチューニングできることを示しており、新しいTMR素子の開発に結びつき得る成果である。物理的なメカニズムについては完全には明らかになっていないが、実験的に観測された結果は、単電子トンネル効果のオーソドックス理論によっておおよそ説明できるものである。
|