本研究は、アークイオンプレーティング型PVD装置を用い、結晶配向制御したハードコーティングを作製し、その配向制御したコーティングのキャラクタリゼーションおよびトライボロジー特性への影響を評価し、材料の長寿命化を図ることを目的としている。本年度はコーティングされた材料が実際に使用されるであろう潤滑状態下において、配向制御コーティングのトライボロジー特性を調査した。 半径15mm、高さ4mmのSKD11試験片に、バイアス電圧を-50、-100、-150、-200Vと変化させ、配向制御したTiN被膜をPVD装置を用いて成膜した。被膜の表面性状の影響をなくすため成膜表面を研磨し、その後ボールオンディスク試験機により摩擦・摩耗特性を調査した。潤滑材にはまずエンジンオイルを用いて実験を行い、それと同等の粘度を持つパラフィン系鉱油のP100、低粘度のP8で実験し、基油のみの潤滑状態での摩擦係数を調べた。その上で添加剤効果を調べるため、P100にオレイン酸、硫黄系、2種類のZnDTPをそれぞれ5%加えた潤滑油を用いて実験を行った。以上の実験から以下の結果を得た。 1)潤滑状態ではバイアス電圧が-200Vで成膜された(111)優先配向の被膜は、-50Vで成膜された(200)優先配向の被膜よりも摩擦係数が低く、良いトライボロジー特性を示した。 2)潤滑状況下では-50V、-200V共にディスク材へのボール材の凝着は確認されなかった。 3)添加剤を加えた場合、-50Vで成膜された被膜の摩擦係数値の振れ幅は小さくなり、-50Vと-200Vの差は添加剤を加えない場合と比べて小さくなった。
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