ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、電化保持能力、絶縁性、熱的・化学的安定性といった観点から優れた機能を有し、エレクトロニクス分野で大きく期待される薄膜材料である。しかしながら、ほぼ全ての溶媒に不溶であるために、ウェットプロセスによる薄膜化は極めて困難である。これを解決するために注目されているのが、完全ドライプロセスな薄膜作製手段であるレーザーアブレーション(PLD)堆積法である。 従来、PTFEのPLDの研究では、PTFEを直接励起する真空紫外・短紫外レーザーが用いられてきた。しかしながら、これらのレーザー(F2 エキシマレーザーなど)は極めて高価であり、ランニングコストや操作性の観点からも汎用レーザーとは言い難い。即ち、PLD法によるPTFE薄膜作製を実用段階に飛躍的に近づけるには、安価でしかも操作性の高いレーザーを用いる必要がある。 以上の観点から、本研究ではそのような要求を満たす近赤外レーザーPLDによるPTFE薄膜作製を目的とした。現段階での研究実績を以下に記す。 1)紫外レーザーを用いたPTFE薄膜作製 近年、固体レーザーの進展は著しく、コンパクト化、価格低下、操作性の向上が目覚しい。そこで、比較的普及しつつあるナノ秒YAGレーザー第3高調波パルス(355nm)を用いた。この光ではPTFEは励起できないが、研究者(坪井)は独自に提案した光増感PLD法を適用し、良質なPLD薄膜を作製することに成功した。 2)近赤外レーザーを用いたPTFE 薄膜の作製 上記を発展させ、YAGレーザー基本波パルス(1064nm)で薄膜作製を試みた。第3高調波よりも発振のランニングコストが遥かに安価である。増感剤としてグラファイトを用い、PLDを試みたところ、光強度を最適化することにより良質のPTFE薄膜の作製に成功した。 2)機能性タンパク質薄膜の作製 上記を代表的な機能性タンパク質であるシルクフィブロインの薄膜作製に適用した。その結果、薄膜の2次構造を制御しつつフィブロインの薄膜を作製することに成功した。
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