機能性有機材料はすでに様々な電子デバイスに利用されているが、利用できる薄膜作成法は数が少なく、薄膜化が困難な物質も多く存在する。このような薄膜化困難物質の薄膜作成手法の開発が待たれている。すでに、機能性有機材料自体をアブレーションによって蒸着する手法はいくつか報告されているが、その成膜性は悪く、機能性物質の特性も劣化してしまう。これはアブレーションによって分子構造が破壊されてしまうことによると考えられる。したがって、本研究によって開発した環境制御アブレーションはこのような問題点を解決する最良の手法であると考えられる。機能性分子自体をアブレーションによって蒸散させるのではなく、マトリックス中に機能性分子を分散させ、マトリックスを蒸散させると同時に、機能性分子も蒸散する系を構築することによって、アブレーションによる機能性分子の損傷を最小限に押さえることができる。この方法の利点としては真空蒸着法では蒸着できない分子の蒸着も容易に行えることと、マトリックスの吸収波長を制御することによって機能性分子の光分解なども防げることである。 今年度は、マトリックスの選択法を考える上で、基礎的なデータとして膨潤系の薄膜形成を試みた。この系ではマトリックスを励起するのではなく、マトリックス中に存在する分子の励起による蒸散において、励起分子の分解を最小限に抑える条件の検討を行った。分子としては膨潤状態を容易に作成できるコラーゲンを使用した。また、膨潤させるための溶媒としては水を使用した。その結果、良好な堆積膜を作成することができた。これは光熱変換過程で生じた熱が溶媒によって緩和されるために分子の分解が抑制されたためだと考えられる。乾燥系ではこのような堆積膜の形成は行えないため、環境制御アブレーションの一例として膨潤系を使用することが可能であることが示された。
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