研究概要 |
本研究では,ELPIによって捕集・分級された微粒子サンプルの組成分析にLIBSを利用することを検討している。ELPI(Electrical Low Pressure Impactor)とは,ダスト粒径分布のリアルタイム測定を実現する測定機器の一種であり,そのダストサンプルは円形アルミニウムプレート上に付着した形で得られる。一方,LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy)は発光分光分析の一種であり,固体試料の直接分析法への応用が期待できる。これらの組み合わせによって,燃焼排ガス中に含まれる有害微量重金属の微粒子(ダスト・煤塵)への濃縮度を,簡便かつ短時間で定量的に評価する分析システムを確立することが,本研究の目的である。 本年度は,粒子組成およびその付着量が既知であるELPI模擬サンプルを作成し,上記のシステムによるLIBSシグナルの取得およびその積算・平均化の妥当性の確認を目的とした実験を行った。測定対象金属としては鉛(Pb)に注目した。Pb付着の模擬サンプルから得られたLIBSスペクトルからは,サンプルのベースとなるアルミニウム(Al)の線スペクトルに加えて,406.2nmのPb線スペクトルが確認された。また,Pb付着量に対する線スペクトル発光強度の検量線については,その単調増加は確認できたものの,Pb付着量が多くなるにつれて傾きが小さくなる非線形性が見られた。この傾向はLIBSの固体分析への応用に関する既存の研究結果でも確認されており,元素が高濃度で存在する場合にプラズマ温度が減少し,これによって発光強度は線形に増加しないと説明されている。一方,今回の実験結果から評価されたPbの検出限界は2.52μgであった。この値は,実際の排ガス中サブミクロン粒子の組成分析に対して十分に現実的な重量であり,本研究の目指す分析システムの可能性を示すことができた。
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