紫外レーザによる気相分子の光解離を開始過程とした微粒子の生成、成長過程を測定するため、新規微粒子計測法であるlaser induced incandescence(LII)法を用いた。試料気体としてまず、タングステンヘキサカルボニル(W(CO)6)とスチレン(C6H5C2H3)の混合気体を使用した。このタングステンヘキサカルボニル(W(CO)6)は266nmの紫外レーザによる多光子解離によりW原子を生成することがLIF法等により確認されている。そこで、266nmのレーザ照射によりW原子を生成させ、引き続き起こるW原子のスチレン分子への二重結合への配位とその後続過程で生成する微粒子をLII法で観測した。その結果、紫外レーザー照射開始直後からLII信号が観測され、照射時間が経過するにつれて信号強度の増大およびLIIの減衰の時定数が増大した。Meltonらの理論によると信号強度はナノ微粒子体積密度、信号の減衰の時定数は微粒子径に比例する。本実験結果はナノ微粒子の生成量および粒子径の増大を示していると思われる。減衰速度と生成した微粒子の物性値から算出した粒子径は数nmから数十nmであり、光散乱法に比べて、LII法が粒径の小さな微粒子に極めて感度が高い手法であることが裏付けられた。さらに数時間レーザーを照射し続け、反応容器中に静置した基板のSEM観察により、微粒子の生成を確認した。微粒子径もあわせて調べた結果、粒径は約20nmであった。次に、微粒子生成過程に及ぼす試料組成の影響を調べるために、タングステンヘキサカルボニル(W(CO)6)と酸素(O2)の混合気体、タングステンヘキサカルボニル(W(CO)6)とエチレン(C2H4)の混合気体の2種類でも実験を行った。前者の場合においてはLII信号が266nmのレーザ照射開始後に急激に増大するが、その数分後には減衰し、最終的にはLII信号が完全に消滅するのに対して、後者の場合にはレーザ照射開始後、LII信号が検出された後はその信号強度を一定に保ったまま減衰しない。この差異に関する理由について、LII法に関する基礎データの集積とともに今後検討する予定である。
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