クエン酸結晶の水溶液からの生成過程を、溶液を急速凍結して割断し、割断面の炭化水素プラズマ重合レプリカを電子顕微鏡で観察するプラズマレプリカ法を用いて検討した。 未飽和水溶液では、直径約20nmのクラスターおよびその凝集物(直径約60nm)、さらにこの凝集物が鎖状に連結された構造が観察されたが、これらの構造が見られない平滑な部分も見られた。このように、クラスターの空間分布に偏りがあり、クラスターがほとんど存在しない領域がある一方、密度の高い部分では凝集していた。 飽和水溶液では、直径約20nmのクラスターが溶液内をほぼ均一に満たしているようすが得られた。 生成結晶が懸濁した飽和水溶液では、直径約60nmのクラスターが密に集合している部分が観察され、その構造は未飽和水溶液中でクラスターが局所的に凝集している部分の構造と類似していた。また、直径約60nmのクラスターが鎖状に連結して成長したと考えられる、太さ約60nmの棒状の凝集物も確認された。 以上の結果からクエン酸の水溶液からの結晶化機構として、次の機構が示唆される。未飽和水溶液には直径約20nmのクラスターが存在し、クラスター密度の空間ゆらぎによって密度が高くなった部分ではクラスターの凝集がおこる。直径が約3倍(60nm)のクラスター凝集体が特に安定で、より大きい構造の単位としても振る舞う。飽和溶液ではクラスター密度の増加により、クラスターが溶液をほぼ均一に満たす。過飽和になると、クラスターの相互連結が顕著となり、結晶へと転化する。クラスターが鎖状に連結されることから、クラスターには優先的に連結されていく方向があり、この方向は生成結晶の方位、形態とも関連しているものと考えている。 来年度は、異方性結晶が生成する系を対象として、結晶形態とクラスターの方位との関連を明らかにし、上記仮説の確認を行う。
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