本研究では、ハイドロタルサイトおよびモンモリロナイトに代表される結晶性無機粘士鉱物の特性を利用した新規な固体酸塩基触媒を開発している。主に対象とした有機反応は、新しい炭素-炭素結合形成に有効なアルドール反応、マイケル付加反応、およびエポキシ化反応である。以下に成果の詳細を述べる。 1)ハイドロタルサイトの自己組織化力を利用して層間および表面の炭酸アニオン種を水酸化物アニオンに交換すると、水中でアルドール反応を進行させる新規な固体塩基触媒となることを見出した。本触媒は、NaOH等の無機塩基に比べ、アルドール生成物の選択性が極めて高い。また、同程度の酸性度をもつ反応物を区別する特異な選択性を示すことも明らかにした。 2)金属酸化物から調製した新しいタイプのハイドロタルサイト触媒は、過酸化水素を酸化剤とする不飽和ケトン類のエポキシ化反応において、従来調製法から得たハイドロタルサイトよりも高活性である。この高活性化塩基性ハイドロタルサイト触媒を用いると、反応物の1.5等量の過酸化水素のみを使用する超効率的なエポキシ化反応が可能となる。また、5%という低濃度の過酸化水素水を酸化剤とすることもできる。 3)モンモリロナイトの層間に固定化したスカンジウムカチオンは、相当する均一系よりも極めて効率的にマイケル付加反応を進行させる。また、無溶媒条件下での反応を可能とする。チタンカチオン交換モンモリロナイトでは、種々のカルボニル化合物のアセタール化反応およびカルボン酸類のアルコールによるエステル化反応に、典型的な固体酸であるゼオライト触媒よりも高い活性を示す。また、モンモリロナイト層間に形成した鎖状金属水酸化物が強い酸点と関連していることを見出した。また、鉄イオン交換モンモリロナイト触媒では、過酸化水素を酸化剤に用いた環状アルカン類の酸素化反応において、選択的にアルキルヒドロペルオキシドを与える。この時、触媒活性はこれまで報告されている酸素化触媒系に比べ、極めて高い。 本研究で開発した固体酸塩基触媒は、分離・回収が容易で再使用が可能であるというだけでなく、均一触媒系に比較し、優れた化学選択性を示す特徴がある。
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