本研究はすでに当研究室で作製、効果を実証している癌抗原MUC1-リンパ球抗原CD3間を架橋することで抗腫瘍効果を示す最小の二重特異性抗体(Mx3 diabody)のさらなる機能改変を目的としており、今年度は以下の観点から研究を進めている。1、複数のdiabodyの作製。2、抗腫瘍効果の増強を誘導する様々なエンハンス分子との融合。3、他の癌抗原特異的抗体への置換。今年度の実績は以下の通りである。(1)当研究室でクローニングしたリンパ球に共刺激シグナルを伝達する抗CD28抗体の可変領域を用いて新たなdiabody(Mx28)を遺伝子工学的に作製、大腸菌を用いた発現系および不溶性顆粒からの巻き戻し操作を経た調製法を確立した。複数のdiabodyにより癌細胞-リンパ球間の架橋度、及び抗CD28抗体によるリンパ球活性化の増強が期待できる。(2)現在エンハンス分子として用いている変異型スーパー抗原に比べ、より低免疫原性かつ抗腫瘍効果の増強が期待できる分子としてヒト由来の4-1BBLをクローニングし大腸菌を用いた組換え体の調製に世界で初めて成功した。リンパ球表面のレセプターへの結合をフローサイトメトリーにより、リンパ球の共刺激能を細胞傷害試験によりそれぞれ確認した。抗腫瘍サイトカインとして知られるヒトinterleukin-12の組換え体の調製系を確立した。(3)他の有力な癌抗原である癌胎児性抗原(CEA)に対する抗体、T84.66をコードする遺伝子をクローニングした。可変領域断片及び一本鎖抗体について共に巻き戻し操作を経て調製した。癌細胞表面への結合をフローサイトメトリーにより確認した。以上の結果を踏まえ、二重特異性抗体とエンハンス分子の様々な組み合わせによる融合タンパク質を構築、各種機能・物性評価を行い、有力な癌ミサイル療法の治療薬としての可能性を探る予定である。
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