還元的TCA回路は有機酸を代謝系の中心とした非Calvin回路型のCO2固定系の一つであり、TCA回路の逆回転により4分子のCO2から1分子のオキサロ酢酸を生成する。しかし、本回路におけるそれぞれの酵素的性質や反応機構の解析、遺伝子クローニングはこれまで詳しく行われていない。本研究はは湖水より単離した緑色硫黄細菌Chlorobium limicola由来還元的TCAによるCO2固定を分子レベルで明らかにすることを目的とした。 ATP-citrate lyaseはATPを用いてクエン酸をオキサロ酢酸とアセチルCoAに開裂する逆クライゼン反応を触媒する興味深い酵素であり、原核生物では還元的TCA回路を有する生物にのみ存在している。我々はC. limicola由来ATP-citrate synthase遺伝子のクローニングと異種宿主発現を行い、本酵素が真核生物由来酵素と異なるαβヘテロ構造を有していることを明らかにした。本酵素は逆反応を触媒せず、またADPによる競争阻害や、基質であるクエン酸濃度に応じた負の協同性を示し、回路の回転を制御していることを見出した。また[γ^<-32>P]ATPを用いた反応機構の検討により、本酵素のα-サブユニット中のHis273が自己リン酸化され、ついでリン酸基のクエン酸への転移とCoAとの結合によって生じたシトリル-CoAが開裂してオキサロ酢酸とアセチルCoAが生成することを示した。さらに、°ADPは自己リン酸化された酵素と可逆的に反応してATPを再生することにより競争的に酵素反応を阻害することを示した。 また、CO2固定酵素の一つであるisocitrate dehydrogenaseの遺伝子クローニングおよび生化学的解析を行った。本酵素は、多くの生物に存在するダイマー型とは異なるモノマー型酵素であり、中性付近では脱炭酸活性と同程度の炭酸固定活性を示すこと、オキサロ酢酸によって競争阻害を受けることを明らかとした。
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