乳酸菌Lactococcus lactisは抗菌ペプチドであるナイシンを生産するが、その生産プロセスにおいて同時に生成される乳酸の蓄積によりナイシンの生産効率が減少する。乳酸生成に向かう代謝経路を破壊したりそれと競合する代謝経路を増強するといったことをして乳酸の生成を抑制した場合、ナイシン生産効率がどのように変わるかを調べることを目的とした。 乳酸の生成を抑制するような代謝経路改変により、細胞内の代謝の流れが変わることで別の代謝物質の過剰生産が引き起こされ、乳酸菌の生育阻害またはナイシン生産阻害の可能性が考えられる。そこで、乳酸生成に向かう代謝をエタノール生成に向けた場合を考え、生成されるエタノールの影響を調べるため、濃度を何段階か設定して培養を行い、菌の増殖、pH、代謝産物の量およびナイシンの生産量を測定した。結果をもとにモデルを構築し、シミュレーションを行ったところ、野生株よりナイシンの生産量は多く、ナイシン生産阻害に対する乳酸の影響よりエタノールの影響の方が小さいことが分かった。 次に、ピルビン酸から乳酸へ向かう代謝を止めることを試みた。相同組換えを利用して乳酸脱水素酵素遺伝子の破壊を行うため、それに使用するプラスミドを構築し、エレクトロポレーションにより乳酸菌への導入を行ったが、組換え体は得られなかった。今回用いたプラスミドは乳酸菌では複製しないので乳酸菌内での保持時間が少ないことが理由と考えられた。また、乳酸菌内で特定遺伝子の発現を増強するため、発現ベクターの構築を試みた。強力に発現することが知られているP32プロモーターとターミネーターをそれぞれPCRにより増幅し、Enterococcus faecium N15株由来プラスミドとpUC19とを結合させた乳酸菌-大腸菌シャトルベクターに挿入して構築した。
|