フェムト秒領域における顕著な現象として、パルスの時間的広がりを生じる群速度分散(GVD)、スペクトルが広がる自己位相変調(SPM)が挙げられる。これら2つの現象を適切に利用すると、物質の有無やその存在場所に関する情報を同時に得られると予測される。本研究では、超短パルスレーザー光による非線形光学効果を利用した新しい分析法の原理について詳細に検討することを目的とした。 平成14年度には、前年度に作成した数値計算シミュレーションを改良することで実際の分析系への適用を試みた。実際の分析では、水溶液中で行うことが多いとため、水の屈折率データからGVDとSPMを導くことを試みた。しかしながら、昨年度でも問題となった高速フーリエ変換(FFT)の時間分解能と周波数分解能を両立することが出来ない問題点が顕著となった。FFTによらない方式等他の計算方法も試みたが、未だに解決法を見いだせていない。また、初歩的なFFTによる計算の結果、GVDやSPMを検出が可能な程度変化させるには、現状の分析法の濃度の下限より数桁高い濃度でなければならず、実際の分析法としては現実性に乏しいことも判明した。そこで、超短パルス光を利用する他の分析法について検討した。光ファイバーを利用する顕微鏡システムに関して、生体関連分子の分析の基礎実験をCWレーザーとナノ秒パルスレーザーを用いて行った。その結果、基礎的な結果が得られ、学術雑誌に公表した。この発表した結果は、例えば細胞中は様々な屈折率の異なる分子が数多く存在するため、将来的にフェムト秒レーザーを用いることで、GVDやSPMを利用した分析実現の可能性を示唆できたと考えている。
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