研究概要 |
クロモフォア間の電子的相互作用による電荷共鳴吸収(CRバンド)を示す安定な光生成ラジカルの支配因子と動力学を解明し分子制御を行い,新しい分子間非局在電子系の構築とその光制御及び特異な光機能発現を目的として研究を行っている.本年度は,二つのクロモフォアを立体規制した化合物を合成し,光生成ラジカルの電子的相互作用について検討を行った. 二つのニトロスチリルピリジニウム塩をペンタン2,4位で架橋したペンタン誘導体と,プロパン1,3位で架橋したプロパン誘導体を合成した.脱酸素下において光照射を行うと,可視域に光誘起電子移動により生じたニトロスチリルピリジニルラジカルの吸収が,また近赤外域に光生成ラジカルともとのカチオンとの電子的相互作用により生じたダイマーラジカルカチオンによるCRバンドがともに生じた.ペンタン誘導体の吸収は,プロパン誘導体に比べ若干ブルーシフトした.その後,ペンタン誘導体は暗所で放置すると,1500nm付近にピークを有する新たな吸収が生じて20時間後まで増加し100時間以上生じた.このペンタン誘導体が,プロパン誘導体に比べ顕著な違いを生じるのは,2,4位に有する2つのメチル基の立体規制によりダイマーラジカルカチオンの解離が遅くなったためと考えられる.また,電子スピン共鳴の測定から,通常のダイマーラジカルカチオンとは異なり,不対電子が二つのクロモフォアに完全に共有されてはいないことが示された. 今回,プロパン誘導体において,2つのメチル基の立体規制によりダイマーラジカルカチオンが特異な配置をとり,これまでのプロパン誘導体に比べより大きな分子内相互作用を生じさせることが示された.
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