平成13年度に、金属集積型生体分子であるフェリチンを、アミノ基を末端に有するチオール有機分子で単分子膜修飾した単結晶金電極上に静電的に固定化した。フェリチンが固定化された基板をタッピングモードの原子間力顕微鏡で観察したところ、基板上へのフェリチンの凝集は全く観察されず、単分子レベルで均一に基板表面上に吸着していることが解った。本年度は、電極基板上に固定化したフェリチンをナノ構造表面構築のための触媒としての応用を検討した。触媒として用いるために、熱処理によるフェリチンのタンパク部分の除去を試みた。アミノ基を有するチオール単分子膜で修飾された金基板上にフェリチン分子を単分子レベルで均一に修飾したのち、酸素存在下で400℃の熱処理を行ったところ、はじめにフェリチンが固定化された位置を保ったまま、そのコア金属である酸化鉄のナノ粒子のみを基板上に残すことが可能であることが、原子間力顕微鏡より確認された。鉄処理後の基板の赤外反射スペクトルの結果は、フェリチンのタンパク部分が完全に除去されたことを示した。熱処理を施した基板を石英チャンバーに入れ、メタンと水素との混合ガス存在下で600℃の加熱を施したところ、フェリチンコアのナノ酸化鉄粒子を触媒として、カーボンナノチューブが生成したことが、原子間力顕微鏡等から確認された。 生体内で金属イオン運搬の重要な役割を有するトランスフェリンの人工脂質分子膜中への固定化と電気化学的評価を行った。その結果、脂質膜フイルムの相転移温度以上の温度において、鉄(III)および銅(II)結合トランスフェリンはカチオン性の脂質膜フイルム中にイオン交換的に取り込まれることが解った。また、取り込まれた鉄(III)および銅(II)結合トランスフェリンの電気化学的測定が可能であることが解った。
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