平成13年度は、対象物質として我々が合成に成功したオケルマナイト(Sr_<0.98>Eu_<0.01>Dy_<0.01>)_2Mg Si_20_7を取り上げた。高純度原料からの化合物の合成は、通常の固相間反応により容易に行うことができる。しかし天然のクリソタイル鉱石や加エアスベストは、複雑な形態と不純物を含む混合物であり、原料としての使用に当たって、粉砕や不純物の溶解等の前処理が必要であった。特に天然のクリソタイル鉱石は、大量の鉄分を不純物として含有しており、硫酸による酸処理を行わずに原料として使用した場合には、強い体色により発光特性の低下が起きた。一方で、粉砕に関しては、天然のクリソタイル鉱石はボールミル等により容易に破砕することができ、当初計画で予定していた前処理プロセスの確立が実現できた。 天然鉱石から合成した試料の蛍光特性に関しては、不純物の存在による組成ずれと蛍光体の体色の二つの要因が発光特性に影響を与えていることが確認できた。対象化合物であるオケルマナイト化合物は、広い範囲で構成イオン種を変化させた固溶体を形成することが可能であるため、単一相に近い試料を天然物原料より合成でき、比較的に発光輝度の高い試料を合成することは容易であった。一方で、わずかな組成のずれでも、残光特性は低下することが確認された。今回の研究では、天然物および加工体を原料にするために組成は複雑かつ変動が大きくなっている。そこで原料組成に伴う構造変化と蛍光特性を関連付けために、イオン間距離、構造変化を粉末X線構造解析により検討した。その結果、結晶構造中のカチオン欠損等の欠陥構造が残光特性に大きく影響していることが明らかになった。
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