研究概要 |
PbWO_4系酸化物イオン伝導体は焼結法によって調製されるが,メカニカルアロイング(MA)法によっても合成可能である.Pb_<1-x>La_<2x/3>WO_4系の粉末密度は調製法によらず,Pbサイトの欠損を仮定したモデルに一致するものの,Pb_<1-x>La_xWO_<4+x/2>系ではMA試料は格子間酸化物イオンをもつ焼結体よりも低い粉末密度を示し,MA試料の欠陥構造は焼結体のものとは異なっているものと考えられた.本研究では粉末中性子回折,FT-IR測定,熱容量測定,誘電緩和測定を行い調製法の違いによる欠陥構造とイオン伝導性について議論した. まず焼結体の中性子回折実験を行い,格子間酸化物イオンの位置を決定し,非等方性温度因子も含めた情報から拡散パスを推定した.次にこの物質でIR活性なW-Oの伸縮振動による吸収に着目し,Pbサイトに欠損を持つ系ではこの吸収ピークが高波数側にシフトするため,これを利用してPbサイトの欠損についてキャラクタライズした.焼結法で調製したPb_<1-x>La_xWO_<4+x/2>系では単一の吸収ピークを示すのに対し,MA法で調製した試料ではピークは分裂しPbサイトに空孔を形成すると考えられた.このようにして粉末密度の低下を説明できた.さらにMA試料の粉末中性子回折実験を行いサイト占有率を調べたところ,Pbサイトの占有率は低くなり,IR測定を支持する結果が得られた。 また,MA試料のイオン伝導特性を導電が顕著になる高温で測定すると焼結が進行するので,低温熱容量測定を行った.100K付近ではいずれの系でも焼結体試料はMA試料よりもわずかに大きな熱容量を示した.焼結体では可動格子間酸化物イオンの運動の励起や格子間酸化物イオン周囲の振動数の低い局所的振動によるもの思われた.このことは間接的にMA試料が格子間酸化物イオンを含みにくいことを示した.さらに中温度領域での誘電緩和測定を行ったところ,MA試料と焼結体では,低温領域では異なる緩和挙動を示し,昇温してゆくと類似した挙動を示すようになった。 以上のことから,MAで調製した試料は同一組成の焼結体とは欠陥構造のみが異なることを明らかにし,イオン伝導に関与する物性がこれらに大きく依存することを示した.
|