研究概要 |
芳香環へのアルケンの光環化付加反応は、高歪み化合物や多環式化合物を合成する手段として有用であるが、光励起状態にある活性種はエネルギーが高く、しかも短寿命であることから、しばしばその制御が困難となり、複雑な混合物を与えてしまう反応系が少なくない。本研究では、ナフタレン、フェナントレン環へのアルケンおよびシクロプロパン化合物の分子内および分子間光環化付加反応について検討し、以下の知見を得た。 (1)1-シアノナフタレンとアルケンとをエーテル鎖で連結した化合物の分子内光環化付加反応は、ナフタレン環の1,2位または3,4位で進行した。1,2位への付加体は光環開裂し原料へと戻るのに対し、3,4位への付加体は光照射しても変化しなかった。さらに、本反応の位置選択性はアルケニル基のドナー性、溶媒、金属塩の添加によって制御可能であることを明らかにした。 (2)9-シアノフェナントレンとドナー性の置換基を有する1,2-ジアリールシクロプロパンとの光反応を行ったところ、フェナントレン環の9,10位への新規(3+2)光環化付加反応が進行した。すべての生成物の構造、溶媒効果、添加物効果、蛍光消光実験から、本反応は一重項エキシプレックス、1,5-ビラジカルを経て進行しているものと推定した。 (3)長鎖アルキル基を導入したフェナントレンカルボン酸エステルとケイ皮酸エステルのベンゼン中における光反応は、メチル基を導入した化合物の光反応に比べてtrans付加体の生成割合が増加した。また、無溶媒系ではベンゼン中の反応では認められなかったケイ皮酸エステルの二量体が生成した。
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