昨年度の報告書において、Pd(OAc)_2/PPh_3/In(OTf)_3からなる複合触媒が様々なアリールアルケンの二量化反応に有効でることを示したが、この反応が、期待通りアリールアルケンのPd(0)錯体への酸化的付加を経て進行しているかの反応機構について考察した。アリールアルケンの二量化反応はカチオン性パラジウム二価錯体によっても触媒されることが知られているが、α-メチルスチレンとスチレンの1対1混合物をカチオン性パラジウム錯体あるいはPd-In(OTf)_3を触媒に用いて反応させたところ、カチオン性パラジウム錯体を触媒とする反応系では、スチレンのみが二量化したのに対し、Pd-In(OTf)_3を用いる反応系では、α-メチルスチレンが選択的に二量化した。この結果は、Pd-In(OTf)_3を用いる反応系において、ルイス酸であるIn(OTf)_3による活性化によって、より安定なベンジルカチオン種を与えるα-メチルスチレンの方がP4(0)価錯体に酸化的付加し、選択的に二量化したと考察することができる。この結果に加えて、アリールアルケンの二量化反応はPd(OAc)_2の代わりにPd(0)価錯体を触媒前駆体として用いても進行するので、触媒サイクルは期待通りPd(0)【double arrow】Pd(II)の過程を含むことを実験化学的に示すことができた。以上の結果をまとめてChemical Communicationsに速報紙として投稿し、受理された。 アリールアルケン同士の二量化反応以外に、芳香族アルデヒドや芳香族イミンをPd(0)価錯体に対する求電子剤として利用する、アルデヒド・イミンへのアルケン炭素-水素結合の付加反応についても検討した。アリールアルケンの二量化反応の反応条件はこの反応には直接適用できなかったので、他のパラジウム錯体・ホスフィン配位子・金属トリフラート・溶媒等の反応条件について改めて詳細に検討したが、この場合にはアルデヒド及びイミンの原料回収に留まり、目的の反応を進行させることができなかった。
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