遷移金属を用いる一酸化炭素取り込み反応の一つとして金属カルボニル錯体への求核攻撃は比較的古くから研究されてきた。しかしながらこの反応には大きなリミテーションがあった。すなわち反応に用いられるアルキル金属種(アルキルリチウムやアルキルマグネシウム等)の反応性が高すぎて一酸化炭素とも反応してしまうため反応を触媒反応に応用することや、あるいはone potのタンデム反応に適用することが不可能であった。その一方で、一酸化炭素と反応しない求核剤は一箱に反応性に乏しく金属カルボニル錯体への求核攻撃も起こらない。しかしながら金属カルボニル錯体と反応しないアルキルメタル化合物をカルボニル化の試薬として使用できるような反応を見いだせばカルボニル化の新機軸となりえる。そこで反応性の低いアルキル金属種を反応させるために金属のルイス酸性を利用して配位一酸化炭素の側にアルキル金属を誘導する事を計画した。13年度には用いる錯体として(η^4-tetraphenylcyclo-pentadienone)Ru(CO)_3を合成した。この錯体に等量のトリメチルアルムニウムを作用させたところ目的とする反応が進行した。本反応はルテニウムの2価の錯体に対しては起こる反応であるが0価のカルボニル錯体に対しては全く反応は起こらなかった。0価のルテニウムにおいては錯体分子内にcyclopentadienone部位の存在が不可欠であった。これはアルキル金属の配位によるcyclopentadienoneの形式的酸化的付加によりルテニウムの価数が2価になっているためであると思われる。さらに14年度にはこの酸化的付加過程を詳細に研究するため対応するMn錯体を合成して反応を行った。この錯体は配位子として挿入反応に不向きなアセトニトリルを有しておりこの配位子が脱離することでマンガンにアルキル基が結合した錯体を発生させることを期待して反応を行った。この場合確かに先に仮定した酸化的付加したタイプの錯体が生成することを確認することができた。
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