アロステリズムを分子認識系に組み込むための指針として、回転軸周りに論理的に認識部位を配置するという我々の作業仮説が正しいかを検討するために、ダブルデッカー型ポルフィリン錯体を基本骨格として選び、種々の分子認識系を構築してきた。本年度は、分子として、ガン関連糖鎖抗原であるルイス糖類を選ぴ、それぞれ対応する認識部位をダブルデッカー型ポルフィリン錯体に導入した。ボロン酸誘導体を導入した化合物においては、我々のグループで行ってきたボロン酸を用いた糖質認識化学に新たに正のアロステリズムという概念を加えたことになる。その結果、従来の手法では認識することが非常に困難であったマルトオリゴ糖、ラミナリオリゴ糖などのオリゴ糖鎖のセンシングが可能であることを世界に先駆けて示すことに成功した。さらにボロン酸を導入したダブルデッカー型ポルフィリン錯体は単糖よりもオリゴ糖に対して高い親和性を示し、アロステリズムを発現しない化合物に比べて、認識に伴うシグナル強度が増幅されることを明らかとした。細胞接着に重要でありかつガン関連糖鎖抗原であるルイスオリゴ糖類をターゲットとして検討したところ、世界で初めて「水中」かつ「人工合成分子」で認識することに成功した。以上の結果から、(1)弱い化学・物理シグナルの増幅、(2)ゲスト分子に対する選択性、感度の向上にアロステリズムが非常に有効であることが明瞭に示された。しかしながら、ダブルデッカー型ポルフィリン錯体は、水中での安定性が低いため、回転軸の利用を金属イオンからアセチレン軸に展開した分子を新たに設計し、合成した。この化合物は水中において単糖を認識することが可能であり、かつフコースに対しては蛍光スペクトル応答が確認された。
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