不斉反応触媒の開発は、これまで主に遷移金属を中心に研究が行われ、還元反応をはじめ炭素-炭素結合反応においても、高い選択性を示す実用的な反応が見いだされている。一方近年、金属等を用いない環境への負荷の少ない有機合成反応が求められている。そこで生体内において加水分解反応等を加速するグアニジノ基に着目し、グアニジン骨格を中心とした実用的な有機分子型不斉触媒の開発を目的とし、研究を行った。 その結果、海洋産天然物の母核骨格をヒントに5環性環状グアニジン化合物を独自に設計し、その効率的合成手法の開発に成功した。開発した合成手法は、抗腫瘍海産天然物Crambescidine359の初めての全合成に応用され、これまで不明だった天然物の絶対配置の決定を行うことができた。さらに、開発した合成手法を用い、種々の5環性グアニジン化合物の合成を行ったところ、そのいくつかは、不飽和ラクトンとピロリジンとのヘテロマイケル反応を顕著に加速する触媒であることが明らかとなった。また、この反応におけるグアニジン触媒の役割(メカニズム)について、触媒のX線結晶構造解析より解明を行った。
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