研究概要 |
海洋産天然物には、複雑な構造と強い生物活性を有する化合物が数多く単離されており、その中でも赤潮の原因毒であるブレベトキシンBに代表される多環状エーテル系天然物は、多くの不斉中心を有し、かつ6,7,8員環エーテルが梯子状に連続した基本骨格を有する巨大な分子である。そのためこれら天然物の合成を行う上では、より効率的な多環状エーテル骨格の構築法の開発が必須である。そこで我々は、新たな環状エーテル構築法を検討し2つの手法を開発した。即ち、ランタノイド反応剤として知られているヨウ化サマリウムを用いた簡便合成法および繰り返し型合成法、そして複数のセグメントを連結し短段階で構築する収束的合成法を開発するに至った。本年度は、これら開発した反応のより広範な利用を目指し、反応の特性についてさらに詳細な検討を行い、天然物合成への利用も検討した。 まずヨウ化サマリウムを用いた環状エーテル合成法において、我々はこれまですべて6または7員環エーテルを有した化合物から反応を試みてきたが、今回環状部分を全く持たないアルデヒドとベータアルコキシアクリレートを有した鎖状化合物からヨウ化サマリウムによって立体選択的に2,3-トランステトラヒドロピランを構築できることを見出した。同様にして2,3-トランスオキセパンの合成も行い、さらに5および8員環エーテルの構築を検討した。 次に多環状エーテル骨格の収束的合成法として、核間メチル基を有する五環性ポリエーテルの収束的単段階合成の検討を行った。その結果、最終工程の還元反応において核間メチル基の影響でこれまでとは異なる立体を有するポリエーテル化合物が優先的に生成する知見を得た。 さらに天然物合成への応用として、我々はヨウ化サマリウムを用いたラジカル環化によりマイトトキシンのC'D'E'F'環部及びガンビエロールのFG環部の合成に成功した。
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