前年(平成13年)度の研究において、鉄-ルテニウムシアノ高分子錯体(ルテニウムパープル(RP) : Fe_4^<III>[RU^<II>(CN)_6]_3、or K^+Fe^<III>[Ru^<II>(CN)_6]^-)が水素発生に対する分子触媒として機能することを見いだした。「プロトン還元」と「水素酸化」は酸化還元平衡系であるので、同一分子によるレドックス触媒機能の発現の企図を目的として、本年(平成14年)度はRPを触媒とした水素酸化反応について検討した。 K^+もしくはNa^+を含む電解質水溶液中で、RPによる水素酸化反応を電気化学的に検討した。RP中のFe^<II>イオンの酸化に同機して、水素酸化が起こることをボルタンメトリーにより明らかにした。RP中のFe^<III/II>の酸化還元電位はpHに依存しないが、H^+/H_2対の式量電位はpHの上昇とともに卑にシフトするため、pHが高い条件では、RPの水素酸化に対する酸化力が見かけ上増加し、より活性な電気触媒化学的水素酸化が起こった。RPの還元体(Feの酸化状態がII価)はアニオン構造を有するため、Fe^<III/II>のレドックス過程は電解質中に含まれるカチオンによる電荷補償を伴うが、RPの格子サイズよりも水和イオンサイズが大きいNa^+電解質系(実際には、Na^+は部分的に脱水和して電荷補償に関与する)よりも小さいK^+電解質系で水素酸化に対する触媒活性が高いことがわかった。これは、Fe^<II>の電荷移動に対する動的過程が電荷報償に関わるカチオンの易動度を反映したためと考えられる。そのため、RPの水素酸化に対する触媒活性とFe^<II>の電荷移動速度をRPの電極修飾量に対して調べ、本系における動的支配因子についても詳細に考察した。
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