イタコン酸ジ-n-ブチル(DBI)のバルク重合を60℃より高温で行うと、分子内連鎖移動反応が起こる.最近、末端近傍の立体規則性がシンジオタクチックなラジカルの方がイソタクチックなものよりも分子内連鎖移動反応を起こしやすいことを見出した.また、Cu錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(ATRP)系開始剤を用いると、少なくとも60℃では分子内連鎖移動反応がほぼ抑制できることもわかった.本研究では、ATRP系開始剤以外に分子内連鎖移動反応を抑制する方法を調べた. 1.ルイス酸 scandium trifluoromethanesulfonate [Sc(OTf)_3]などの触媒量ルイス酸存在下、トルエン中60℃でDBIの重合を行ったところ、分子内連鎖移動反応が抑制されるとともに、得られたポリマーのシンジオタクチシチーが増加することがわかった.この結果は、末端近傍の立体規則性がシンジオタクチックなラジカルの方が分子内連鎖移動反応をしやすいという結果と対応するものである.また、DBI-Sc(OTf)_3混合物のNMR解析から、DBIモノマーとSc(OTf)_3との錯形成が分子内連鎖移動反応抑制の一要因であることを示唆する結果も得た. 2.アミド化合物 ルイス酸の変わりに水素結合を通してDBIモノマーと錯形成可能なアミド化合物中60℃でDBIの重合を行ったところ、トルエンなどの一般の有機溶媒中よりも分子内連鎖移動反応が抑制できることがわかった.また、DBIモノマーと当モル量のアセトアニリド存在下、種々の溶媒中で重合を行うと、極性の低い溶媒中の方が分子内連鎖移動反応をより抑制できることが明らかとなった.さらに、NMR解析からもDBIモノマーとアセトアニリド誘導体が錯体を形成していることを確認できた.これらの結果は、期待通り水素結合を通したDBIモノマーの錯形成が分子内連鎖移動反応抑制に重要であることを示すとともに、弱い水素結合を用いてもラジカル重合反応を制御できることを示唆するものである.
|